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【第1部】怒りのマネジメント〜子どもが学ぶために〜

執筆者の写真: ポジティブ・ディシプリン コミュニティポジティブ・ディシプリン コミュニティ

私たち養育者の多くは、子育ての中で

自分でも信じられないほどの苛立ちや怒りを感じ、それに戸惑い、自分や子どもを責め、悩み、苦しい気持ちを経験するのではないでしょうか。


怒りの感情

怒りは、人に対する攻撃性となり人間関係を破壊することがあるため

"出してはいけないもの”と思われがちです。しかし、

怒りの出し方は攻撃行動だけではありません


子どもに怒りを感じたとしても、子どもへの直接的攻撃行動、すなわち叩いたり怒鳴ったりではなく、違う出し方ができます。


具体的には

①誰かに怒りの出来事を聞いてもらう

②その出来事について自分なりの理由をつけて納得する

③忘却

④気分転換

⑤相手との話し合い

⑥物への八つ当たり


自分はどんな怒りの出し方をしがちでしょうか。全部の方法を使っているでしょうか。


上の方法で気になることは

③忘却と④気分転換は、短期的には役に立っても中長期的に問題になってくることです。怒りを喚起した出来事の直後には、怒りに任せた衝動的な行動を避け、落ち着ける効果があります。しかし、長い目で見ると怒りが生じた問題は未解決であり、その出来事に対して整理できず、従って受け入れることもできず、思い出して怒りが維持されると言われます。


男性より女性がよく使う怒りの出し方は、①誰かに怒りの出来事を聞いてもらうことです。

ママ友やパートナーなど家族に話したり、先生に相談したり、子育て相談を利用されています。


自分の怒りや悲しみ、苦しみや困った気持ちを聞いてもらい、「わかるわかる」と共感してもらったり、自分が腹が立つ状況を振り返り対応を考える時間や視点をもらったりできます。


怒りで感情が昂って視野が狭くなることもあれば、怒りには抑うつが伴いやすく気持ちが落ち込むことも多いです。抱えている気持ちを出し、誰かから寄り添って気持ちを分ちあってもらえると、自分の気持ちや視野を回復することがあります。回復した視野や思考で、自分以外の視点を得て、子どもとの難しい問題の解決にチャレンジすることができてきます。


このような心のプロセスは、子どもも同じです。

感情の調律や怒りのマネジメントは、大人でも難しいものですから子どもが自然に当然に獲得するものではありません。はじめに親子関係の経験を通して獲得されます。


以下のような悪循環は、親としての私がよく経験したものです。大熊保彦(2009)より引用

おとなによって不快な感情(この場合「怒り」)を否定され続けると、子どもはそれをうちに抱えていられずに、行動として表現してしまうのである。そして行動化した表現を悪いこととして叱られれば叱られるほど、不快な感情を処理できなくなる。

子どもの感情制御の悪循環(大熊,2009)
子どもの感情制御の悪循環(参考文献:大熊,2009)

「感情的」というと、私たちはどこか「大人気ない」とか「未熟」といったマイナスの感じをもっていないでしょうか。感情について、心の専門家の文章を引用します(杉原,2015)。


人が生きていく上で、不安も淋しさも依存心も怒りも、程度の違いこそあれ、誰だって体験することがあるでしょう。それは生きていくことそのものだと言ってもいいものです。それらの体験を避けることは十全に生きることを避けることだとも言えます

感情は生きる上で必要なものである、恐れすぎなくていいものと思えるでしょうか。

感情の種類によってかもしれません。私は「恥」や「淋しさ」には恐れすぎることはなかったと思いますが、「怒り」は苦手でした。そのため、子どもの「怒り」を避け、一緒に抱えて取り組むことができず、子どもは自分でなんとかしようとするものの限界が来たときに癇癪を起こすことになりました。参考:受け止められなかった子どものネガティブな感情


では、どうしたらよいのでしょう。

ある子育てプログラムでも、子どもの気持ちを認めることの難しさを指摘しています。フェイバ・マズリッシュ(2013)より引用

スキルを要するのは、否定的な感情です。そこが私たちの、無視したい、否定したい、道徳的なことを言いたい、などの古くからある誘惑を克服しなければならないところです。
子どもが何を感じているのかを知るためには、子どもが言っていることを超えて、内面を覗き込むことができるように、練習し、集中することが必要です。さらに、子どもの内面の現実を表す言葉を、私たちが与えることが大切です。子どもはいったん、自分が経験していることを表す言葉がわかれば、自分で自分を助けることができるようになるのです。

別の言葉で言うと 大熊保彦(2009)より引用

大事なのは、大人が不快な感情の存在やその表現を悪いものだとして認めないのではなく、子どもの不快な感情を共感的に理解し、たとえ不快なものであっても、それを体験しているあなた(=子ども)は、大人によって保護されているのだ、というメッセージを言語や行動によって子どもに示すこと

私たちは人生でたくさんのネガティヴな気持ちを体験しているので、子どもに生じている気持ちを推測できるし、その気持ちの負担感を知っています。同じ気持ちになった時のしんどさや辛さを思い出した上で、落ち着いて子どもの気持ちを否定せず、子どもがそのまま持っていいものとして認めることをしてみます。


「怒ってるんだね」「嫌なのね」「疲れて、すべて投げ出したい気持ちだ」と共感的に理解し、言葉で表現してみます。


そして、そんな気持ちを体験しているあなたは、

親もとではその気持ちを吐露できるし

この家の中ではリラックスでき安心感を回復できるし

気持ちの原因となった問題を一緒に考えることができる

と言葉や行動で表します。


このようなプロセスを人間(親子)関係の中で重ねて、子どものみならず人は感情の調律や怒りのマネジメントのスキルを獲得していきます。


今回は怒りの出し方の多様さと、出し方の中の

①誰かに怒りの出来事を聞いてもらう

を、子どもの感情の調律スキル獲得に結びつけて、ご紹介しました。

次回は、怒りの対象のほとんどが人間だと言う点から、対人葛藤の視点で怒りのマネジメントを考えてみたいと思います。




【引用・参考文献】

アデル・フェイバ , エレイン・マズリッシュ(2013).子どもが聴いてくれる話し方と子どもが話してくれる聴き方 大全.きこ書房.

大淵憲一(1986).質問紙による怒りの反応の研究——攻撃反応の要因分析を中心に.実験

社会心理学研究,25,127-136.

大渕憲一・小倉左知男(1984).怒りの経験 (1) ——Averill の質問紙による成人と大学生の

調査概況.犯罪心理学研究,22,15-35.

白崎けい子(2009)学童期のメンタルヘルス―「生きる力」を育てる確かな基礎づくり (現代のエスプリ no. 503).ぎょうせい.

杉原保史(2015).プロカウンセラーの共感の技術.創元社.


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