「ママがお洒落をしてゆったりと乳母車を押しているような未来に」「子ども への感謝をすること」
園庭にはたくさんの樹木が。小鳥も遊びに来ます。
お庭の落ち葉で堆肥を作り、野菜を育てます。
子ども達は命の循環を体験するのです。
「もう一つのお家」である保育園の中で、子ども達が安心安全な環境で自由を保障されて育まれている姿を見て、親御さんもまた安心してお子さんを預けて毎日を過ごすことができているように思います。
「安心安全で子どもの自由を 保障するデモクラティックな保育」を実践される園は親御さんにとってもロールモデルになるもののように思いますが、通われている親御さんに変化はありますか?
中辻先生)
開園前は、ここが公立園だったということもあり、民間経営の保育 園を反対するお声が園の内外にありました。開園して、私たちスタッフも笑顔 で一生懸命保育させていただきました。園舎の雰囲気もあるかもしれませんが、 反対されていた方々は、日々の保育を見ていただく中で理解してくださいまし た。ある保護者の方は卒業時に「先生よくやったね」とおっしゃってくださり、 涙が出そうになるくらい嬉しかったです。そうした変化もあります。 日々の中では、朝と夕方の送り迎えの時に親御さんとお顔を合わせるだけなの で、親御さんをガラッと変えるような影響は難しいのですが、「ハグハグキャ ンペーン(※次回ブログにてご紹介)」をはじめ親御さんとのやりとりは何よりも 大事ですね。心がけていることは親御さん、お母さんを「褒めること」です。 「褒める」と言ったら大上段になってしまいますが、誰しも、認めてもらって、 褒めってもらって嬉しくない人はいないと思います。「今日も忙しかったです か、これからまたお家に帰ってやることがたくさん待っていて大変だけど頑張 ってね、応援していますね。」「その服素敵ですね。」「髪型変わりましたね。」 とお話しすること。お母さんをねぎらいほめることを大切にしています。 とにかく、親御さんは大変。応援しているよ、とメッセージを送ることは大切だと思います。
各年齢ごとの保育指針をクラスの前に掲示し、 親御さんと共有しています。 木の根には「安全」「平等」「感性」「責任」 「尊敬」の根。 注がれるものは「適当な培養」と「愛情」。
*「適当な培養」とは、
中辻先生によれば、 適度な力加減や適度な距離間の子育ての関わり、 子どもを信じること、その他「おいしい食事」など子ども の衣食住に関わること、ということです。
核家族の中で仕事と子育ての両立
中辻先生)
核家族で手助けもなく子育てをしている親御さんは本当に大変だと 思います。私の娘も核家族で子育てをしています。夫の帰宅が遅くなり、寝か せるところまですべて一人でやっており、「本当によくやっているなあ」と心 から思います。
やはり誰か助けてくれる人が一人でもいれば、お母さんが笑顔になって、家族 みんなが笑顔になれる。私自身は、産休育休も取らずに働く中で、周りに助け てもらいながら子育てと仕事の両立をしてきましたが、自分を助けてくれる人 がいたからやってこれたと思っています。
私を助けてくれていた叔母が「あな たが笑顔の方がいいのよ。その方がみんなも笑顔になるの。だから私はあなた を助けるわ。」と言ってくれたのは大きかったですね。
誰にとっても、自分が笑顔になるような声をかけてくれる人がいることは大切 ですよね。
また、園の食事では、常に温かい食事を温かく、冷たい食事は冷たく提供できるようにこだわっています。食事は「給食」ではなく「食事」。子どもに「温 かいものは温かくて、冷たいものは冷たく食べるのがおいしいこと」を経験し てもらいたいと思うのです。園でできることは限られてしまいますが、そういった一つ一つのことから家庭に近づけ、子どもの育ちをサポートし、親御さんを応援したいと考えています。
園では、お母さん、お父さんたちの代わりになってあげることはできないけれ ど、園でお預かりしている間は、精一杯笑顔でお子さんを愛して、そしてお母さん、お父さんにお帰しする、という気持ちでいつもいます。
忙しい親御さん方ともお手紙でやり取りをするご意見箱にもコミュニケーションの工夫が。
子どもたちが教えてくれたこと、感謝すること
園の随所に子どもの気持ちを引きつける仕掛けをされておられますね。先生が 「子ども心」を持っておられる方だということを実感しました。
中辻先生) 私が子どもっぽいのでしょうね。(笑)私自身、私の子どもから教 えてもらったのです。子どもの自由な感性や生き方を見せてもらうことで、た くさんのことを子どもから教えてもらうことに感謝しています。自分の周りの 環境に「感謝」することが大切だと思っています。
昔はもっと大勢の人が持っていたであろう感覚、物にも感謝する「ご飯がヘリ に残っていたらお百姓さんに悪い。バチが当たるよ」といった感覚。今そういった感 覚がなくなっていますね。おせっかいをする人や「あんたそれしていたらダメ だよ」と教えてくれる人もないし、困っていたら「代わってあげようか、助け てあげようか」という助け合いも難しい。またそうした社会を作っていくこと は大変だけれども、一人一人がそうしたことにヒューマニズムを持つ、一人一人が気にするようになっていくと社会も変わっていくと思います。
本を読むスペースをお部屋の中央に。静かに本を開きたい、一人になってホッとしたい時があります。( 3・4・5 歳児クラス)
ママがお洒落をしてゆったりと乳母車を押しているような未来に
園のエントランスに飾られた1枚の絵を中辻先生はご紹介くださいました。 この絵は先生の「理想のママたちの姿」なのだそうです。
「お洒落をして、ゆったりとした気持ちで公園で乳母車を押している、そんなママたちが増えたらいいな、と心から思ってます。」
「保育園という場所でできることは限られている」とおっしゃいますが、それぞれの発達年齢に合わせた安心安全な環境づくりを実践され、
何よりも、子どもにとっても親にとっても、安心で安全で温かみのある「安全 基地」を作っておられる中辻先生の実践を2時間あまりじっくりと伺いました。 「子どもをアウトサイダーにしない」から、始まった 北欧の「デモクラティ ックな保育」の実践。
「社会の一員として生きていく術を身につける。」は、まさに0歳児からの保 育の中で実践されていました。
ポジティブ・ディシプリンでは、子育ての長期的目標を「20 歳になった時の子どもの姿」に置きます。
「社会の一員として生きていく術を身につける。」という「デモクラティック な保育」の保育指針とも通じていると思いました。
中辻先生の保育実践の中で、親御さんに対する長期的目標があるとすれば、「お 洒落をしてゆったりとした気持ちで乳母車を押すお母さんたち」=「自分らし く生き生きと過ごすお母さんたち
の姿」ということなのではないか、と感じました。
保育の現場で実践されていることと、養育者を対象とした子育てプログラムの 中にたくさんの共通点があることに気づかせていただきました。
私たちも「ポジティブ・ディシプリン プログラム」を学ばれる方々に対して、 子育ての長期的目標とともに、養育者自身の長期的目標は何か、を考える機会 を今後も提供していきたい、と思いました。
中辻先生、ちぐさのもり保育園の皆様と子ども達の皆様、
今回見学をさせていただき、またインタビューにて素晴らしい園の取り組みを ご紹介をさせていただきありがとうございました。
社会福祉法人よしみ会 ちぐさのもり保育園の取り組みは、理事長 中辻 祥代先生による「子どもが変わる!愛情保育35のメソッド(黎明書房)」でもご覧いただけます。
保育の場だけではなく、家庭でも取り組愛情子育てのヒントがたくさんです。
次回第3回目は、
ちぐさのもり保育園他でも取り入れられている ある「キャンペーン」のご紹介に続きます。
私もこちらの園の見学以来、自宅でこのキャンペーンを試していますよ。
次回も是非ご覧ください。