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【第2部】怒りのマネジメント〜対人葛藤スキル〜

執筆者の写真: ポジティブ・ディシプリン コミュニティポジティブ・ディシプリン コミュニティ
対人葛藤は夫婦間にも親子間にも
夫婦間・親子間にも対人葛藤

古い研究(大渕・小倉,1984)になりますが、大学生以上60歳までの男女合わせて254名から得た回答では、

怒りの対象のほとんど(98%)が人間で、

怒りは本質的に他の人間(特に,個人)に向けられた対人情緒であることが分かる。

怒りが対人情緒ならば、心理学でいう"対人葛藤”は怒りにとても近いものだと思われます。対人葛藤とは

「自分の願望や期待が人から妨害されている状態」を指します。自分は「こうあるべきだ」とか「こうあってほしい」と思っているのに、他の人がそうしてくれない、といった状態です。

子どもや子育てのパートナーに感じる気持ちと重なりませんか。

一緒に住みいつも目に入る場所にいて、親密で期待をする相手であれば、必ずその期待や願望が叶わないときがやって来るでしょう。

夫や妻・子どもとは対人葛藤を感じやすい、つまり怒りが生まれやすい関係性と考えられます。


今回は、対人葛藤解決スキルの知見を参考に怒りのマネジメントを考えます。


以下は大渕(2009)の情報を要約します。

対人葛藤があるとストレスを感じ不快なので、私たちは様々な方法で解決・解消をします。代表的なものは以下です。


  1. 対決方略…自分の立場を強く主張したり相手を責める

  2. 間接方略…間接的なやり方で相手の気持ちを変化させる

  3. 回避方略…葛藤が表面化する話題を避けたり、相手を避ける

  4. 協調方略…話し合いによって相手との合意を目指す


方略ごとの特徴と効用を表にしました。

方略

特徴

効用

対決方略

自分の立場を強く主張したり相手を責める

△:相手が譲歩するかもしれないが、長期的に見ると相手に敵意が残ったり周囲に敬遠されることがある

間接方略

間接的なやり方で相手の気持ちを変化させる(相手が気づくように遠回しに伝えたり、相手の気持ちをなだめるなど)

△:相手が気づかないと役に立たない。「はっきり言って」と反発されたり、回りくどい非難と受け取られることがある

回避方略

葛藤が表面化する話題を避けたり、相手を避ける

△:対立を避けても欲求不満が残ったり、相手が問題に気づかなかったりと、本質的な問題解決にならない

協調方略

話し合いによって相手との合意を目指す(説得、懇願、妥協、交換取引、統合的提案など)

対最も有益な方略で、ほとんど常に葛藤解決に役立つ。


最も有益なものは、話し合いによって相手との合意を目指す「協調方略」です。


しかし、日本人は葛藤解決ではなく葛藤回避を選びがちで、自己主張せず我慢することが多いそうです。


葛藤回避はとりあえずの人間関係の維持には役立つものの、図のように

葛藤解決への自信がつかない→問題を回避続ける→解決スキルを学ぶ機会を失う→我慢しすぎて爆発する

という問題が生じます。

問題回避方略の悪循環
問題回避の悪循環(参考文献:大渕,2009)


ポジティブ・ディシプリン®︎は、子どもとの葛藤において、話し合いによって解決できるように養育者をサポートします(Durrant et al. , 2014)。提唱するポジティブ・ディシプリン®︎モデルの最上部は「課題を解決する」という原則です。


ポジティブ・ディシプリン®︎モデル
ポジティブ・ディシプリン®︎モデル

ポジティブ・ディシプリン®︎プログラムでは、ヒトが持つストレス反応についての知識を学びます。我慢しすぎて爆発するようなストレス反応のしつけ(対決法略)を見分け、それとは異なる子どもと話し合う(協調方略)しつけを何度も擬似体験します。

そして、子どものしつけではどんな方略が有効か自ら経験し、日本人にあまりなじみがない協調方略を思い描けるようになります。


「冷静に話し合えと言われても、怒りの感情が抑えきれず無理」

と私もはじめは思いました。


しかし、冷静に話し合うことは怒りの感情の(適応的な)表現の一つです。

はじめは難しいと思いますが、何度もめげずに繰り返すと次第に


・冷静な話し合いや観察でお互いの感じ方・考え方への理解が進む代わりに怒りが軽減する

・話し合いで解決できる経験の増加により衝動的な怒りが減少する


など体験できるでしょう。話し合い(協調方略)が怒りの適応的表現である、言い換えると怒りの解決方法であることが納得できてくると思います。



最後に怒りの軽減について、もう一つ。

怒った出来事に対して改めて振りかえることが有用です(大渕・小倉,1984)。自分で再評価するもよし、人に話して人と一緒に振りかえることも良い方法です。


出来事を振りかえる際は、振りかえる指針があるとやりやすいです。

以下のようにポジティブ・ディシプリン®︎モデルを使って、振りかえることができます。


あの出来事では

【課題を解決する】課題はなんだったかな、どの課題に焦点を絞ったらよかったかな

【子どもの考え方・感じ方を理解する】子どもはどんな気持ちだったのかな、子どもの年齢からすると何がわかって何がわからなかったのかな

【長期的目標を決める】私は子どもにどういう人になってほしいと願っているんだっけ。あの時の私のしつけの目標には何を置いていたのかな

【温かさを与える/枠組みを示す】温かさをどんな風に与えたらよかったかな、伝えたかった枠組みってなんだったろう


振りかえることが、怒りをどんな風に緩和するかというと

  1. 出来事の重要性を低める 

    例えば、子どもが自分の気分ややりたいことを優先して、すぐに養育者が言った通りにしなかったとします。状況を振りかえり子どもの目線で考えると、私自身も自分のタイミングでやりたいからと子どものオーダーにすぐ応じないことがあると思い直します。すると、子どもの態度はそんなに私が怒りまくるくらい重大なことではないと怒りが緩和されます。

  2. こっけいに思う

    例えば、子どもがこちらに『ばーかばーか』と言ったとします。腹が立つのですが、状況を振りかえり子どもの発達段階を意識することで、なんと子どもらしい・子どもくさいことをするんだろうと感じます。こんな古典的な漫画みたいな表現をするなんて、それに対し大人の私が鼻穴を大きくして興奮して怒っているなんて、と滑稽に思えると、怒りは緩和されてきます。

  3. 自分の責任を考え直す

    例えば、子どもが癇癪を起こし、私が「もう勝手にして!知らない!」と怒ったとします。落ち着いてから振りかえってみると、あの出来事での自分の目標は、私自身のイライラの発散だったと気づきます。すると、子どもは人(主に養育者)から癇癪にどうやって対処すれば良いのかを教わることで、癇癪とは別の表現を学ぶことを思い出し、教える自分の責任を考え直します。私の「子ども自身で気持ちをコントロールしてほしい」という子の発達にそぐわない願望や期待が妨害され、怒った自分に気づきます。



怒りは「無」にするものでもなく、過度に抑制するものでもなく、適応的に出すようマネジメントすることが望ましいものです。一方で子どもの怒りのコントロール介入プログラムでは以下の考え方もあります。


従来のプログラムでは、怒りの緩和や抑制に力点があり、子ども達はややもすると葛藤回避に陥る恐れがある。怒りを穏やかに表現することも重要だが、ある場面では怒りに任せて激しくやりあっても、そのあと和解できる方がより深く人間関係を発展させることができることもある。

私たち大人は完璧な人間ではありません。


体調や状況、これまでの経験によって怒りのマネジメントが願うようにできないことが多々あります。怒りに乗っ取られたことだけを取り上げて、自分を責めて終わらないようにしたいものです。


生活の時間は、怒った出来事からも続きます。落ち着いてから振りかえり、改めてどうして自分があんなに怒ったのか伝え関係を修復したり、改めて話し合い合意したりできます。


そして、落ち着いて振りかえることができた自分や、改めて話し合いができた自分や子どもに敬意と愛情を感じて、長い子育ての時間を過ごしてほしいです。



引用文献:

大淵憲一(1986).質問紙による怒りの反応の研究——攻撃反応の要因分析を中心に.実験

社会心理学研究,25,127-136.

大渕憲一 (2009). 怒りを活用する心理教育.現代のエスプリ,503,185-195.

大渕憲一 (2003). 対人葛藤の解決スキル 教育と医学 / 教育と医学の会 編 51 (10), 923-931.

大渕憲一・小倉左知男(1984).怒りの経験 (1) ——Averill の質問紙による成人と大学生の

調査概況.犯罪心理学研究,22,15-35.

Durrant, J. E., Plateau, D. P., Ateah, C., Stweart-Tufescu, A., Jones, A., Ly, G.,… & Tapanya, S.

(2014). Preventing punitive violence:Preliminary data on the positive discipline in everyday

parenting (PDEP)program.Canadian Journal of Community Mental Health,33,109–125.


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