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  • 執筆者の写真ポジティブ・ディシプリン コミュニティ

スウェーデンが張り巡らすクモの巣とは?


日本とスウェーデン国交150周年記念セミナー

「スウェーデンの幼児教育と保育 ~私たちはどう生かせるか~ 」特集第2弾

前回のブログは、スウェーデンの幼児教育の第一人者サミュエルソン教授

の基調講演の記事でした。


エリザベス氏

今回は、その後にお話しされたSweducare のエリザベス・ソバーンさんの言葉から少し考えてみたいと思います。

エリザベスさんは地域の100校余のプリスクールをまとめる組織SEFIFの会長として、長年プリスクールの経営や組織運営の指導にあたられてきた方です。

プリスクールという教育現場を通して、

子どもを見守り、子どものことを考えてきたエリザベスさんが話してくれました。

====(講演録ではございません。記憶とメモから内容を再構成しています)

カリキュラム(日本の指導要領)・法律・目的・活動がクモの巣のように繋がっており

最も大切なのは、子どものためという原点です。


私たちは、子どものアントレプレナー的能力をどう開発していくか考えています。

アントレプレナー的能力とは、

スウェーデンの作家リングドレーンの名作

「長くつしたのピッピ」がまさに表現していて、ピッピの言葉を借りると

「I have never tried that before, so I think should definately be able to do that.」

(私はそれをやってみたことがないから、絶対にできるはずだ)

という勇気を子どもたちが持ち、

協力・コミュニケーション・振り返ることなどで培われる問題解決スキルであったり、起業家精神のようなものです。

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前後の講演者のお話と統合すると

スウェーデンには、子どもをどのような存在と捉えるかという子ども観が明確にあります。

それは、

スウェーデンが望む持続可能な世界は、子ども達とともに始まる

子どもはアントレプレナーであり、私たちが望む社会づくりの有能な共同者である

というものです。

この子ども観が、エリザベスさんが仰ったように

カリキュラム・法律・目的・活動がクモの巣のように繋がっている

というのはどういうことなのでしょうか。

子ども観は様々あるので、2つの子ども観を提示して、子どもの扱われ方をシミュレーションしてみます。

1つ目はスウェーデンの子ども観

1)スウェーデンが望む持続可能な世界は、子ども達とともに始まる

子どもはアントレプレナーであり、私たちのより良い社会づくりの有能な共同者である

2つ目は

2)親の監督下で養われている存在

という子ども観です。

後者2)の子ども観だと、どんな社会、どんな考えが浮かびますか?

私は、こんなイメージにつながります。

子どもは養われる存在なので、親は食べ物を与え、育て、子どもが生活できるようにする。

そしてのちに自立できるように、子どもは教育を受ける必要があり、親には教育を受けさせる義務がある。親は、子どもを監督し、人に迷惑をかけないように教育する必要がある。

皆さんはいかがでしょうか。

次に、スウェーデンの子ども観が、スウェーデン社会をどう作っているのか、見てみたいと思います。

1)スウェーデンが望む持続可能な世界は、子ども達とともに始まる

子どもはアントレプレナーであり、私たちのより良い社会づくりの有能な共同者である

皆さんなら、子どもをどのように扱う社会を想像しますか?

私は

持続可能性の社会を目標とした時

大人ができることは、大人自身が考えること、加えて大人と共に考えてくれるように子どもを育てようと思います。子どもが共同者としてより良い社会のために共に考えるようになるには

子どもは安心して暮らすことができ

 発達に良い環境を得て

 考える時間を奪われず

 考えを聞かれる存在として扱われ

 社会に参加するのを歓迎される

そんな社会をイメージします。

さて、スウェーデンの子ども観から、スウェーデン社会はどうなっているのでしょうか。

私の上のイメージを切り口に、見てみたいと思います。

子どもは安心して暮らすことができ…

子どもが安心して暮らすには、特定の養育者が継続的に子どもを気にかけ成長を見守り、子どもの不安が大きい時はそばに寄り添うことができるといいですね。

子どもの不安が大きいのは、乳幼児期や病気の時ではないでしょうか。

→スウェーデンでは、1974 年に世界に先駆けて有給の育児休業制度(両親保険)を導入。子どもの誕生から1歳を過ぎるまでは親子の愛着形成にとって極めて重要な時期で、親が子育てに専念できる環境を整えることは必要な社会的支援であるとして、乳児期は家庭で親が中心となって養育する仕組みを整備しました。加えて男女平等社会の理念のもと1995年父親の育児休業取得を促進するため、相互に移譲できない育児休業期間である「パパ月」「ママ月」の制度を導入。

具体的には、合計480日間の育児休業が取得可能。その間の収入は両親保険制度によって、390日間は給与の80%、残りの90日は180クローナ/日が支給。

→子どもの保育時間が長くならないように、子どもが8歳になるまで親の労働時間を25%まで短縮する権利を保障

→子どもが病気の時に利用する看護休業制度を整備。子ども一人につき年間最高120日まで取得可能で、給与の80%を保障

→医療費(歯科診療を含む)は子どもが20歳になるまで無料

次に、

発達に良い環境を得て…

というのは、子どもが興味と好奇心から探索することができ、失敗や未学習や誤学習なことも含め安全に学ぶことができる環境ではないかと思います。

→スウェーデンでは、希望するすべての子どもが保育を受けられるよう、国が保育料負担軽減。保護者はほぼ毎月の児童手当で保育料の大半を賄うことができます。

→子どもに目が行き届く範囲の少人数保育。チーム保育を基本とし、子ども(1歳~5歳)15人に対して保育者3人の配置が目安 (日本の保育所の最低基準は1・2歳児6人に対して保育者1、3歳児20人に対し1 )

 それは「グループサイズが大きいと、子どもの言語発達、子どもと大人の相互作用、子どもの自我の発達や人間関係に好ましくない影響を与える可能性がある。また、グループサイズが大きい方が、よりストレスが高く、騒がしく、衝突が多い」という調査報告(2004年)に基づいています。

→国際児童年(1979年)には世界最初の「体罰禁止法」を制定。体罰や罰は厳しく禁止され、対話による学びを保障。

→1975年に「就学前保育法」 幼保一元化   

希望するすべての子どもが保育を受けられるようになったのを機に、1996年保育サービスを社会庁から学校庁に移管し、また学童保育も学校庁にし、子どもの育つ権利・学ぶ権利を保障

→すべての子どもの発達を保障するためにプリスクールで就学前教育を無償提供。法的な拘束力を持つカリキュラム公布し、質を確保しています

→移民難民の子どもを尊重するため、就学前学校でスウェーデン語以外の言語が話せる保育者を雇用したり、 母国語教師による巡回指導の機会を持ちます

また図書館はペア・ブック(同じ絵本 のスウェーデン語版と外国語版の2冊セット)の貸出しを行っています

考える時間を奪われず…

→スウェーデン教育のカリキュラムでは、子どもは生まれた直後から世界を理解しようとする能動的かつ有能な存在であるのが前提です。今の私たちが知っている知識は、必ず変わっていくものだから知識は大人が与えるものではなくて、子どもと一緒につくっていくものだと考えています。そのプロセスに同行する保育者の役割は重要で、子どもの共同研究者として位置付けています

→2010年の改定でカリキュラムにおいて、「子どもがどのように物事を探求するか、疑問を持つか、経験をするか、関与するかを知る。また、子どもの知識がどのように変化するか、子どもたちがどんな時に楽しく、面白く、意義があると感じるかを理解」し、保育者が「子どもの発達と学びを観察し、ドキュメンテーションを作成して分析する」ことが定められました。(ドキュメンテーションとは、ビデオや録音、写真、子どもの製作物、会話、遊んでいる様子を観察したもの)

このように子どもが考えたり、興味を持てるようにすることが前提で、何を考えているかを理解することから日々の教育が作られています

考えを聞かれる存在として扱われ 社会に参加するのを歓迎される…

→スウェーデンでは1970年代から対話教育法を取り入れており、保育者は子どもを尊重することを基本姿勢とし、子どもを見守り子どもの好奇心や学習意欲、能力を信頼することを基盤 として、対話を重視した保育実践を行っていました

→1993年「子どもオンブズマンに関する法律」制定。

オンブズマンはスウェーデン語で「代理人」の意味であり、公共の討論に参加し、子どもや青少年に関わる重要な問題を決定する人たちや一般の人たちに対して、子どもの権利と利益を代 弁するなどを行っている行政機関です。子どもの代理人として政策提案、法改正も行っています。学校訪問や電話サービス、ウェブサイトなどを通して子どもたちとコンタクトをとり、毎年、政府に報告書を提出しています

→教育ドキュメンテーションの義務付け。目的の一つは、子どもの意見を聞くためで、一緒に子どもと同じドキュメンテーションを見て子どもが何を考えているか知る助けにもします

いかがでしょうか。

「カリキュラム・法律・目的・活動がクモの巣のように繋がっている」とエリザベスさんが仰った意味がわかってきませんか。

このレポートでは

最初に2つの子ども観を提示し、それぞれがどんな社会を生み出すかシミュレーションしてみました。

一方の子ども観からは、家庭に責任が負わされ子どもが管理される社会が想像され

もう一方の子ども観は、子どもはその発達段階に配慮されつつ大人と同じように尊ばれ、能動的に共存している社会が見えたように思います。

子ども観は、私たちの社会に大きな影響を与えますね。

明確な子ども観を共有し、それを法律の形にもして社会に浸透させることは、とても創造的で建設的ですごいなとも思いました。

ちなみに日本とスウェーデンは全く違う文化ではありません。かつてスウェーデンも封建的であったし、女性は家庭という価値観がありましたし、待機児童問題、少子化問題を抱えていました。また子ども観も、日本は「子どもの権利条約」を批准していてスウェーデンと同じ子ども観を共有しています。

セミナーがきっかけのこのレポートも終わりになりますが

ポジティブ・ディシプリンも、子どもの権利を土台にした子育てです。

ポジティブ・ディシプリンを知ることで、子どもをこれまでと違った存在として見るようになったり、子どもとの関係が変わることがよくあります。

ポジティブ・ディシプリンの子育てを通して、より良い社会を子どもと作って行くことができるように、今後も活動してまいります。

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引用および参考:

子どもの最善の利益をめざすスウェーデンの保育 2017 白石淑江

スウェーデンの保育 2015 ウェンドラー・由紀子

スウェーデンの地域子育て支援センター : Oppen Forskola(在宅親子の保育室)の活動  2001 泉千勢

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