気質を知る、その先へ

― 親子の「悪循環」に気づき、違う循環をつくる
子どもの気質を知ることは、子育てを少し違った角度から見る助けになります。
気質とは、刺激への反応のしやすさや、気持ち・行動の調整のしやすさなど、一人ひとりが持つ特徴です。
新しい場所にすぐ入っていける子もいれば、しばらく様子を見る子もいます。
気持ちを切り替えやすい子もいれば、思い通りにならないと強く怒る子もいます。
じっと考えてから動く子もいれば、面白そうなものを見るとすぐに体が動く子もいます。
気質を知ることで、
「どうしてこの子はこうなの?」から、
「この子は、こういうふうに反応しやすいんだ」
へと見方を変えることができます。
研究をまとめたレビューでは、
ある特定の気質について、
親子の間に生まれやすいやり取りのパターンが報告されています。
フラストレーションや怒りが強く起こりやすい子どもは、
子どもの強い反応が親の強い反応を引き出し、
その親の反応がまた子どもの怒りやフラストレーションを強める、
という双方向の関係が比較的一貫して報告されています。
もし自分たち親子と重なるところがあるなら、
「誰が悪いのか」ではなく、「何が繰り返されているのか」
を見てみることができます。
そして、その循環が見つかれば、研究で示されている関わり方を参考に、違う循環になるよう試してみることもできます。
今回取り上げる研究について
今回参考にするのは、Kiff、Lengua、Zalewskiが2011年に発表した、子どもの気質と養育との関係について多くの研究をまとめたレビュー論文です。
この論文で主に扱われているのは、
恐怖
フラストレーションや怒り
自己調整
努力性統制
衝動性など
子どもの適応上の問題や精神病理との関連が比較的よく研究されてきた気質特性です。
一方、活動性、社交性、ポジティブな感情などは、
適応問題との関連が一貫していないとのから、このレビューでは中心的には扱われていません。
よって、この論文は、人間の「気質全体」を公平に見渡して、
どの気質がよいか悪いかを評価したものではありません。
それでもこの論文を取り上げたいと思ったのは、
ここに書かれていることが、子育てで苦労する場面と切り離すことのできない内容だからです。
「なぜ、隣の子はあんなに穏やかなのに」
子育てをしていると、ふと周りを見てしまうことがあります。
同じくらいの年齢なのに、隣の子は穏やかに待っている。
同じように「今日はもう帰ろう」と言われても、すっと切り替えられる子がいる。
一方で、わが子は泣き叫び、怒り、なかなかその場から動けない。
そんなとき、
「私の関わり方が悪いのかな」
「もっと小さい頃に何かできたのかな」
「どうしてうちだけこんなに大変なんだろう」
と、原因探しをしたくなることがあります。
けれど、気質というレンズで見てみると、少し違う景色が見えてくるかもしれません。
気質の一つに 思い通りにならない場面における「フラストレーションや怒りの起こりやすさ」があります。
それは単に「わがままだから」でも、「親が甘やかしたから」でもなく、
その子自身がもともと持っている反応のしやすさが関係している可能性があります。
親子の間には「循環」が生まれる
親の関わりが子どもに影響することは、よく知られています。
でも、影響は一方向だけではありません。
子どもの気質も、親がどう感じ、どう関わるかに影響します。
研究では、
「フラストレーションや怒りが強く起こりやすい」子どもと、
親の拒絶、敵意、厳しい関わり、一貫性のないしつけなどとの間に、
双方向の関係がみられています。
きっとイメージがつきやすいと思います。
何度言っても切り替えができない。毎日、大きな怒りに付き合う。危険な行動を繰り返し止める。
そんな日々が続けば、親の感情も大きく揺さぶられます。
最初は穏やかに言っていたのに、だんだん声が大きくなる。
「また始まった」と思う。「もう無理」と感じる。
そして親が強く反応することになると、もともと反応の強い子どもだからさらに大きな反応になる。
思い通りにならず、子どもが強く怒る
↓
親も余裕を失い、強い言い方になる
↓
子どもはさらに怒り、反発する
↓
親もさらに強く止めようとする
と悪循環になっていることがあります。
これは、親子のどちらかが悪いから起きているわけではないでしょう。
この論文ではそれぞれの反応が、次の反応を引き出していると捉えています。
この循環は、すべての親子に当てはまるわけではないと思います。
でも、もし読んでいて、
「これ、うちにもある」
と感じる場合、考えてみるといいかもしれません。
子どもが何をしたかだけではなく、
「そのとき私はどう反応した?」
「その反応を受けて、子どもはどうなった?」
「それを見た私は、次にどうした?」
と、やり取りを少し長い目で見てみる。
原因を探すのではなく、繰り返されている順番を探すのです。
循環は、気づければ変えられる可能性があります。
「否定的な感情を持ってはいけない」ではない
「子どもに腹を立ててはいけない」
「いつも受容的でいなければいけない」
とお伝えしたいのではありません。
それだと親はもたないと、私自身の経験から思います。
日常の中で、
「もう嫌だ」
「今は優しくできない」
「どうして何度言っても分からないの」
という感情が湧くことはあります。
それをなかったことにして、笑顔だけをつくることが、よい親子関係ではないでしょう。
研究によっても、養育態度の「拒絶」「敵意」「厳しい養育」「過剰なコントロール」などの名称や測定方法はかなり違っていて、単純に「何回怒ったら否定的養育」というものではありません。
見る必要があるのは、ネガティブな感情が一度生じたかどうかではなく、それが親子の間で繰り返されるパターンになっていないか、ということです。
だから、
「怒ってしまった。私はだめだ」
ではなく、
「最近、私たちこのやり取りを何度もしているな」
と循環を見てみる。
その方が、次にできることを考えやすくなります。
私自身も、強く揺さぶられました
振り返ると、わが子も、フラストレーションや怒りが強く起こりやすい子だったのだと思います。
子どもの反応の強さは、私自身にはあまりないものだったと思います。
どうしてそこまで怒るのか分からない。
なぜ今、それほど大きな反応になるのか理解できない。
と私は、混乱していたと思います。
一つ一つは小さな出来事でも、それが毎日続くうちに、私の感情も大きく揺さぶられていきました。
そして、知らない間にエネルギーが枯渇して疲弊した末に、
私も怒る。ときに、泣くことがありました。
今振り返れば、
「子どもが悪かった」
でも、
「私が未熟だった」
でもないのだと考えることができます。
子どもの反応の強さと、それに戸惑う私の反応が組み合わさって、一つの循環ができていました。
循環のどこか一つを変えてみる
循環を変えるために、親も子どもも一度に変わる必要はありません。
どこか一か所が少し変わるだけでも、次の反応が変わる可能性があります。
フラストレーションや怒りが強く起こりやすい幼い子には、研究から、
・次に何が起こるかをあらかじめ伝える
・やることを小さな手順に分ける
・選べる範囲を分かりやすくする
・「ここまではいい、ここからは止める」と境界を明確にする
・対応をできるだけ予測可能にする
といった、大人が外側から調整を助ける関わりが役立つ可能性が示されています。
これは「正しい対応をすれば子どもが変わる」という話ではありませんが
いつもの循環とは少し違う反応を、一つ試してみるのは有意義です。
例えば、
「これが終わったら、次はこれをしよう」と見通しを伝える。
「まず靴を履くよ。そして外に行こう」と手順を小さく分ける。
「カッパと傘、どっちにする?」と選べる範囲を示す。
こうした、大人が外側から少し整理してあげる関わりが、
感情や行動を調整する助けになることが示されています。
親自身も「怒らないように頑張る」ではなく、
「自分が強く反応し始める少し前に何が起きているか」を知る。
疲れている時間帯なのか。
同じ要求を何度も繰り返しているときなのか。
周りの目があるときなのか。
自分の反応にもパターンがあると分かれば、
休む、交代する、誰かに相談するという選択肢も増えます。
子育ては、船で例えられるかもしれません
親子で、一つの船に乗っていると考えてみます。
簡単には降りられません。

波が高くても、風が強くても、その場で何とかしなければならない。
自分が舵を握っていると思うと、責任はとても重い。
「この方向でいいのだろうか」
「間違えたらどうしよう」
と、不安になることもあります。
そして、一緒に乗っている子どもによって、舵の取り方は変えざるを得ない。
風が吹くと、ぐんぐん進みたがり興奮して危ない子もいる。
波を見るだけで怖くなる子もいる。
行きたい方向があると、全力でそっちじゃないと怒り続ける子もいる。
親は、その子と海の様子を見ながら、舵を切ったり、帆を緩めたりします。
子どもへの関わり方は
一つのやり方を覚えて、同じことをやり続ければいいような正解があるものではありません。
観察して、試して、少し変える。
また様子を見る。
子育ては、そんな微調整の繰り返しなのではないかと思います。
親だけが、ずっと舵を握らなくていい
子どもは、乗客のままではありません。
少しずつ、自分でも舵を握れるようになります。
最初は一緒に。
やがて、少し任せてみる。
子どもができるようになって親子が嬉しい瞬間をともにすることがあります。
また
「え、そっちに行くの?」
と思うような方向へ子どもが船を進めることがあります。
心配にもなります。
けれど、その先で、親だけでは見つけなかった景色を見せてもらうこともありえます。
私自身、子どもたちからたくさんの景色を見せてもらいました。
サッカーや虫取りなど、自分一人だったらこれほど夢中にならなかったかもしれない世界。
新しいことに挑戦し、人とつながり、自分を表現していく姿。
圧倒されることもありました。
でも同時に、
「すごいな」
と尊敬し、感動させてもらうこともありました。
気質の違いは、子育てを難しくすることがあります。
でも、その違いがあるからこそ、自分一人では行かなかった場所に連れていってもらえることもあるのだと思います。
悪循環があるなら、一緒に違う循環を試してみる
もし、
「また今日も同じことで怒っている」
「この子が怒ると、自分もすぐ強くなってしまう」
と感じるなら、それを失敗の証拠と自分を責めないでほしいと思います。
「今、同じ循環が繰り返されているかもしれない」
と気づくきっかけになればよいと思います。
なぜこうなったのかと原因探しを続けるより、
「この循環を少し変えられるだろうか」
と考えてみる。
見通しを増やしてみる。
境界の伝え方を変えてみる。
親が疲れきる前に休む。
誰かに話す。
家族以外の人に少し入ってもらう。
そんな小さな変化でも、親子のやり取りは変わるかもしれません。
研究でも、ネガティブ感情性が高い子や自己調整が難しい子どもの親に対して、自分自身の反応に気づくこと、感情や行動を調整する方法、その子に合った対応を学ぶことが支援として重要だと述べられています。
支えを借りることも、子育ての力
「一人でうまく調整し続けられること」
ことが、子育ての力ではないと思います。
親子の間に起きている循環を理解して、必要なときには環境や周囲の力も使いながら、ちょうどよさを探していく。
それも、大切な養育の力なのだと思います。
船の舵を、ずっと一人で握り続けなくてもいい。
疲れたら、誰かと交代してもいい。
海図を一緒に見てくれる人がいてもいい。
港に寄って、少し休んでもいい。
そしてまた、親子で船を進めていけばいい。
気質を知ることは、誰かを責めないための視点にもなる
気質を知ることは、
「この子はこういうタイプ」
とラベルを貼ったり
「親はこう対応すべき」
と正解を増やすためのものとして利用しない方がいいと考えます。
むしろ、
「なぜこの子は、ここでこんなに大きく反応するのだろう」
「なぜ私は、この反応にこんなに揺さぶられるのだろう」
「私たちの間に、今どんな循環が起きているのだろう」
と見るために役立つと思います。
誰が悪いかを探すのではなく、何が繰り返されているのかを見つける。
もし苦しい循環が見つかったら、そのどこか一つを少し変えてみる。
一人で難しければ、誰かに一緒に見てもらう。
子どもの気質を変えるのではなく、親子が一緒に進みやすい循環を探していく。
それが、気質を知ることからできることの一つなのだと思います。
【参考文献】
Kiff, C. J., Lengua, L. J., & Zalewski, M. (2011). Nature and Nurturing: Parenting in the Context of Child Temperament. Clinical Child and Family Psychology Review, 14, 251–301.




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