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  • 執筆者の写真ポジティブ・ディシプリン コミュニティ

「お家のような保育園」デモクラティックな保育(前編)


現在小学生である子ども達が通っていた保育園では、「お家のような保育園」 が園の標語、テーマになっていました。 「お家のように安心できる保育園」「我が家のように、もう一つの家族のよう に子ども達を育んでいただける」 温かい言葉だな、と思って親もまたその園で守られて過ごしてきました。 今回のご訪問は、その言葉を思い出しながら過ごす時間になりました。


今回こちらにご訪問しようと思った目的は、こちらの園で実践されているデモクラティックな 保育の実践を見学するためでした。*「デモクラティックな保育」については本文をご覧ください。

「ポジティブ・ディシプリン」の考え方の3つの軸である『子どもの健やかな発達に関する研 究』『効果的な子育ての研究』『子どもの権利』に基づいた養育と、こちらの保育園で実践さ れている「デモクラティックな保育」とに共通点がある、と考えたからです。 「ポジティブ・ディシプリン」では、子どもの健やかな体と心の成長と発達を保証する効果的 な育児を推奨しています。子どもが子ども時代をどのように過ごすと、体や心・脳が健やかに 発達しやすいか、実践されている現場を見学させていただきました。どんな保育園なのでしょ う。社会福祉法人よしみ会理事長の中辻祥代先生にお話を伺いました。


横浜市青葉区の「ちぐさのもり保育園」 こちらが「ちぐさのもり保育園」の園舎。 「これが園舎??これは大きなお家じゃないですか。」とみなさん思われませ んでしたか。

そう、ここは、まさに「子ども達のためのもう一つのお家」。

もう一つのお家である保育園なのです。

こちらの保育園は、北欧 スウェーデンのデモクラティックな就学前教育を実践 している園。 5月に報告した、スウェーデン大使館でのシンポジウムを企画開催したのがこ ちらの社会福祉法人 よしみ会さんです。 日本でスウェーデンの『デモクラティックな子育て観』の実践をされる 中辻 祥代先生にお話を伺いました。


「誰一人、子どもたちから アウトサイダーを生み出さない」保育園の大改革

中辻先生のご著書によれば「デモクラティックな価値ある保育」とは、

『子ども一人一人の尊厳を守り、平等に保育をし、安全に気を配り、お互いが理解し 合える関係性を身に付けるということ。また、子どもの想像力を育み、コミュニケーションの力を育てること。』とあります。

先生が「デモクラティックな価値ある保育」を実践 しようと思われたのには何かきっかけがあったのでしょうか。

中辻先生)

2000年代の初めに、西日本でバスがハイジャックされる事件が ありました。その頃10代の若者が起こす事件が相次ぎました。特にバスジャ ック事件は、被害者となった子どもと私の子どもが同い年くらいだったことも あり、私にとっては大きな衝撃を受けた事件でした。私は大阪で保育園を運営 する社会福祉法人の二代目として園長をしていました。 私の目の前にいる子 ども達はみんなどの子もいい子なのです。 なぜ、こんなことになってしまう のだろうか、こんなに真っ直ぐな子ども達があのような事件を起こすのか。子 どもたちは、成長の過程でアウトサイダーになってしまうことがある、子ども 達をアウトサイダーにしてはいけない、と思いました。

そして、なぜ子ども達はアウトサイダーになるのかと考えると、それは子ども を育む教育にこそ理由がある、と私は思いました。子ども達をこのような未来 につなげてはならない、と。その頃、あるご縁があって同じ府内の別の園の見 学をさせていただいたことがあります。その園は園庭にたくさんの木や山や子 ども達が遊べる空間が作られており、それまでの園庭のイメージと子ども達が 過ごす1日の考え方を根底から変える体験でした。その体験から、私の園も子 ども達が自由に遊び、自然の中で体験できる環境に変えることから始めたい、 と強く思い至り、私は園長を務める保育園の大改革を実践しました。


明るい光が差し込む天井の高いエントランス

どんな改革だったのでしょうか?

中辻先生)

まず、地域のお祭りへの参加をやめました。大きなお祭りへの参加 のために、子ども達に数カ月にわたって練習をさせていました。園庭というの はそうした公式行事や運動会などのために「運動場」として広いスペースを確 保するのが通常でした。

でも、ご縁を得て他園の見学に行ったことで、子ども達の日常である園は、年 にたった1回の行事のための運動場ではない、そこで様々な体験をすることに こそ価値がある、と思い、思い切ってお祭りへの参加をやめたのです。幸いに ほとんどの保護者のご賛同を得ることもできました。保護者の方々に本当に恵 まれていました。

まずは園庭に木を数本植えました。すると、それを見ていた私の父(先代理事 長園長)がもう気が済んだか?ときいてきたのです。気が済むわけがないです よね、それからです。偶然にも、父が少し現場を離れる機会があったのを幸い に「いまだ!」と、一気に園の園庭をまさに「運動場」から「お庭」に作り替 えたのです。


運動場だった頃の東百舌鳥保育園 ( 写真提供:社会福祉法人 よしみ会 )


お庭に生まれ変わった東百舌鳥保育園 ( 写真提供:社会福祉法人 よしみ会 )

新しくなった「お庭」にはたくさんの木々の森や一年中どこかでお花が咲いて いるようにお花を植え、畑も作りました。子ども達が歩く地面は真っ平らでは ありません、起伏も作りました。

自然の循環を理解してもらうために堆肥づく りを行う場所も作りました。 運動場をお庭にしたことで変化が生まれました。子ども達に「縦の関係」が生 まれたんです。運動場だった時には、大きな子たちがボール遊びなどで真ん中 に出てしまうんですね。でも、お庭にしたことで、大きい子も小さい子も隅っ こで遊んだり、真ん中で遊ぶようになったり、自然に異年齢の交流が生まれた んです。


自然に生まれた「縦の関係」 お庭では、年令の違う子ども達が自然に 交わり一緒に遊びます。

( 写真提供:社会福祉法人 よしみ会 )

そして、園の中での子ども達の過ごし方も変えました。 『一斉保育』をやめて、自由に遊ぶことができるスペースを作りました。当時、 5歳児のクラスでは、雨の日に運動会やマーチングバンドの練習ができる大き なスペースがありました。日頃は使えないように可動式の間仕切りボードで仕 切っていましたが、その間仕切りを取り払い、折り紙やお絵かきコーナーを作 りました。

さぁ、これで自由に遊んでね!と子ども達に見せたところ、子ども達はどうし たと思いますか?

どうしたらいいのかわからず、泣き始めた子が何人もでたのです。

それまで、1日の決められたスケジュールの中で、遊びも遊び方も保育者が提 供していました。保育者の指示がない中で、子ども達はどうしていいかわから ずに泣き始めたのです。

スタッフからも「園長、子どもが自由に自分で考えて遊ぶ保育を実践するので あればもっと子どもたちが遊べるものを準備してください。」と言われて、さ らに環境を整えました。

コーナーごとに発達段階に適したおもちゃが各お部屋に並びます。子ども達はここで思い思い に遊びます。


本物のちゃぶ台を子ども用のサイズに特注されたそうです。


ちぐさのもり保育園では、子ども達の作品を必ず額に入れて飾ります。


2階建てのおうちは秘密基地のよう。子どものサイズになったお家の家具などで生活を学びま す。

「デモクラティックな保育」の実践


本物のデザインを園内におき、子どもの感性を育んでいます。


3・4・5歳児の大きな窓に面した明るい洗面所。自分で排泄できるようになった子ども達、明 るい場所で安心して排泄行為も自立します。


時にはお料理体験もします。電気調理器を使って、実際に熱を通した調理も体験します。

中辻先生は繰り返しスウェーデンの保育現場を訪問されます。そして、訪問し 見学されてきたスウェーデンの保育は、まさにここ「ちぐさのもり保育園」等 で実践されてます。「ちぐさのもり保育園」では、他にどんなことをされてい るのか、中辻先生に教えていただきました。

中辻先生)

園の入り口に子ども達の荷物をかけるロッカーがあります。そこに は家族の写真がたくさん貼ってあります。園に入ったら家族とは離れてしまう、 そんなことはないんです。ここに家族の写真があることで、子ども達も安心で きます。落ち着かなくなった時にもここに来ると子どもは家族に見守られてい ると思い出し、安心することができます。


ロッカールームには家族の写真。それぞれ家族が思い思いにコラージュします。

スタッフの方々は普段着なのですね。

中辻先生)

スタッフの服装も普段着にしています。お食事中以外はエプロンも 使いません。お家の中ではずっとエプロンをつけていませんよね。スタッフ一 人ひとりの個性も大切で、それぞれが好きな服を着ています。 *とはいえ、クラス の先生方は、もちろん子どもに対応しやすく、活動しやすい、柔らかい素材の衣類を着ておら れました。


中辻先生)

ランチとおやつの展示コーナーも工夫しています。 親子の会話が弾むように、親御さんの目線からも子どもの目線でも見やすいケ ースを特別に作って置いています。

大人は上から覗くことができ、子どもは子どもの目線でお食事を確認できます。


ずいぶんダイニングスペースが広いのですね。

中辻先生)

子ども達が1日を過ごすお部屋は、まさに「もう一つのお家」です。 遊ぶスペースと食事をするダイニングスペースは分けています。ダイニングス ペースも大きくとっています。子どもは生活のスペースを分けることで安心し て過ごすことができます。例えば、遅れて食事をとる子がいても、その子もリ ラックスして食事をして、食事が終わってからみんなの中に入ることができる のです。


1・2歳児クラスのお子さんのお部屋の大きな窓からは、園庭が見えました。 室内にいても、他の年齢のお子さんたちが遊んでいる姿や園庭の緑や花を間近 に見ることができ、高低差のある園庭からは滑り台でお部屋の窓際まで降りる ことができるようになっていました。

中辻先生)

5歳児クラスは、就学も見据えてプリスクールカリキュラムを導入しています。 これは、フィンランドの就学前に1年間通うプリスクールを見学した際に「こ れだ!」と思って導入しました。


改革前の保育園では、ひらがなを覚える時間などもとっていましたが、改革後 は一切やめてしまったのです。でも、忙しい家庭の中で、親御さんが就学前を 見据えてお子さんの準備をすることは大変です。ですので、小学校への準備と なり、お子さんの遊びと学びの機会を提供するにはどうしたら良いだろう、と 考えていたのです。

その答えが、フィンランドのプリスクール制度でした。これは就学を見据えて プログラムに沿って教える学びを取り入れています。就学の準備をする学年を 5歳児に絞ったプリスクール制を導入することで、「ひらがな」練習などが低年齢化することもない。

ただし、小学校に上がる準備も含めていろいろお勉強 もします、となりとてもすっきりしました。

「デモクラティックな保育」「ちぐさのもり保育園」の実践は後編に続きます。


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