赤ちゃん返りとは? ― レビュー論文から考える

これまでのコラムでは、赤ちゃん返りをテーマに
行動の背景を理解する視点や、
「理解すること」と「応答すること」を分けて考えることについてお伝えしてきました。
今回は、
『Family Transitions Following the Birth of a Sibling: An Empirical Review of Changes in the Firstborn's Adjustment』
というレビュー論文をもとに、「赤ちゃん返り」を発達心理学ではどのように捉えているのかをご紹介したいと思います。
「きょうだいの誕生」は大きなライフイベント
きょうだいが生まれることは、多くの家庭で経験する出来事です。

この論文では、きょうだいの誕生は、家庭環境や家族の中での自分の立場が急激に変化する「家族の移行期」として位置づけられています。
それは、幼い子どもにとっては
これまで自分だけに向けられていた親の時間や関心が変わり、
生活リズムや家庭内の位置付けも変化する出来事になります。
論文では、このような変化を「急激な不連続性(discontinuity)」と表現しています。
大人にとってはある程度予測できる出来事であり、
上の子にも心の準備ができるよう説明することが多いでしょう。
しかし、幼い子どもにとっては、それまでの日常が急に変化し、その変化を十分に理解したり予測したりすることは難しいのかもしれません。
幼い子どもにとっては、特に難しい変化
論文では、このような環境の変化は、
幼い子どもほど対応することが難しい可能性があると述べています。
一方で、それは発達の危機だけではなく、
新しい家族の中で成長していく機会にもなり得るとも考えられています。
つまり、
きょうだいの誕生は「問題」なのではなく、
子どもが新しい環境へ適応していく発達のプロセスとして捉えられているのです。
お母さんにも変化が起こります
この論文では、多くの研究を比較した結果、
第二子誕生後、お母さん側に比較的一貫した変化がみられることが報告されています。
例えば、
第一子へのしつけが増える
第一子への温かい関わりが減る
第一子との愛着の安定性が低下する
という傾向です。
一方、第一子にも、
母親への愛情表現が減る
母親への反応性が低下する
ポジティブな感情表出が減る
ネガティブな感情表出が増える
という変化が比較的一貫して報告されていました。
もちろん、すべての家庭に当てはまるわけではありません。
しかし、多くの研究で同じような傾向が示されていることは、とても興味深い点です。
「上の子に悪くて……。」
「下の子のお世話で余裕がなく、つい上の子にきつく言ってしまうんです。」
というお話をされるお母さんは少なくありません。
もちろん家庭ごとの状況はさまざまですが、
第二子の誕生は親子双方にこのような変化をもたらしやすい時期であることを知って、「私の関わり方が悪い」と、一人で抱え込まないで欲しいと思います。
「赤ちゃん返り」の現れ方も、ひとつではない
「赤ちゃん返り」というと、
・抱っこを求める・赤ちゃん言葉になる
・できていたことをしなくなる
といった姿を思い浮かべるかもしれません。
しかし、このレビュー論文で報告されている第一子の変化は、もっと幅があります。
例えば、
・泣く、ぐずることが増える
・親のそばを離れたがらなくなる
・親への反応や愛情表現が少なくなる
・不機嫌さや否定的な感情表出が増える
・眠りにつくまで時間がかかる
・夜中に目を覚ますことが増える
・夜泣きが増える
・トイレの失敗がみられる
・食事や着替えなど、身の回りの行動が変化する
といった変化が研究されています。
一方で、反対に、
・自分で着替える
・食事など身の回りのことが上手になる
・赤ちゃんのお世話を手伝おうとする
など、成長がみられる子どももいました。
つまり、きょうだいの誕生後の反応は、
甘えが強くなるだけではなく、睡眠、感情、親との関係、生活行動など、さまざまな形で現れる可能性があります。
そして、すべての子どもに同じ変化が起こるわけでもありません。
「赤ちゃん返り」という一つの言葉で括っていますが、実際には、子どもによってその現れ方はかなり違うのです。
「いつまで続くの?」という不安
「もう4か月になります」
「いつまで続くんでしょう」
という声もよく伺います。
このレビュー論文では、第一子の変化を、生後1か月だけでなく、4か月、8か月、1年など、長期間追跡した研究も数多く紹介されています。
これは、「赤ちゃん返りが1年間続く」という意味ではありません。
むしろ、きょうだい誕生後の適応は、短期間で終わる単純な変化ではないと考えられていることを示しています。
また、近年の研究では、
比較的早く落ち着く子
ゆっくり適応していく子
あまり大きな変化を示さない子
など、さまざまな適応パターンがあることも報告されています。
自分で想定していた期間(例えば3か月くらい)より長く続くと心配になってしまうのは、とても自然なことだと思います。
しかし、この論文からは、「○か月が普通」と言えるような経過は示されておらず、子どもの適応の仕方やペースには大きな個人差があることが分かります。
家族全体が新しい生活に適応している途中
この論文では、家族危機モデル(Family Crisis Model)の考え方も紹介されています。
家族危機モデルでは、大きなライフイベントでは家族に混乱が生じることは、むしろ自然なことだと考えます。
つまり、混乱しない家族はいないという前提に立っています。

その上で重要なのは、家族だけでその混乱を抱え込まないことです。
祖父母や親族、友人、地域の子育て支援、専門機関など、必要な支援を活用することで、家族はこの移行期を乗り越えていくことができると考えられています。
おわりに
今回は、きょうだい誕生後の「赤ちゃん返り」を、発達心理学のレビュー論文から見てきました。
この論文から見えてくるのは、「赤ちゃん返りとはこういうものです」と一つの答えは示せないということだと思います。
むしろ、
家族全体が大きな環境の変化を経験すること
第一子も親も互いに変化しやすいこと
子どもの適応の仕方には大きな個人差があること
家族が周囲の支えを活用しながら、この時期を乗り越えていくことが大切であること
といった、赤ちゃん返りを理解するための視点を示しています。
第二子の誕生は、親にとっても子どもにとっても大きな生活の変化であり、短期間で落ち着くとは限らないことが分かります。
だからこそ、「私の対応が悪いのかな」とか「うちの(上の)子大丈夫かな」
と自分を責めたり、自分の子育てに失望したりし一人苦しまないで欲しいと願います。
これまでの自分のやり方を変えるのは勇気がいることですが、
家族や周囲の力を探し、コーディネートし、
それぞれの家族のペースで、この新しい生活への適応の仕方をみつけていくことが大切なのだと、この論文は教えてくれているように感じます。




コメント